日本冬虫夏草の人工培養
日本冬虫夏草の人工培養
Cordyceps属菌は昆虫や節足動物、地下生菌の土団子菌に寄生して子実体(キノコ)を形成して世代を繰り返す子嚢菌と位置づけられる。有性生殖は寄生から生じた子座上に子襄殻群を形成して行うが、分生子を形成する種があり、無性世代の子実体も肉眼的大きさの分生子柄束になる場合がある。清水大典氏や小林義雄氏らの著書によるとCordyceps属の無性世代の代表的なものはIsaria属である。
冬虫夏草(C.sinensis)以外にも、サナギタケ(C.militaris(L.:Fr.)Fr.)、ハナサナギタケ(Paecilomyces tenuipes(Peck)Samson = Isaria japonica Yasuda)、ツクツクボウシタケ(P.cicadae = Isaria sinclairii)も、天然薬物あるいは薬用資源として利用され、これらを含めたCordyceps属類は医薬品資源として貴重である。しかし、菌の種によっては発生が稀なため薬効評価や有効成分探索のための材料確保が十分にできず、希少種の保護も含めて人工培養が必要不可欠となる。
Cordyceps属菌を人工培養した報告例は国内外を通じて多数あり、その代表例を挙げれば、C.militarisを寄主昆虫で培養する方法や、これを液体培養する方法、またP.tenuipesを半固形培地で培養する方法がある。一方、虫体を用いない培養法により野外と同じ子嚢殻性子座を形成させた例としては、KobayashiとBasithとMadelinの2報告があり、これらの方法は一連のCordyceps属菌を安定して培養する上では有用な方法と考えられる。しかし、矢萩信夫らはKobayashiが報告した実験条件で、サナギタケ(C.militaris)やウスキサナギタケ(C.takaomontana Yakushiji et Kumazawa)の培養を行っても発生する子実体は全て分生子柄束であり、子嚢殻性子座の子実体は形成されず培養系の再現性に乏しかった。さらに虫体を含まない液体培養系を用いてサナギタケ(C.militaris)を培養しても発生する子実体はすべて分生子柄束であった。なお、虫体を用いる培養方法は、薬用とする際の安全面に問題がある。
したがって、安全性が高く野外と同じ有性の子実体を培地上に効率よく形成させ、薬効にロット差を生じない安定したCordyceps属菌の培養系の確立が必要である。
薬用として利用価値の高いハナサナギタケ(Paecilomyces tenuipes(Peck)Samson = Isaria japonica Yasuda)等のCordyceps属菌を野外から採取して虫体成分を含まない培地で子実体を形成させる実験を行い、野外と同じ形態をもった分生子柄束および子嚢殻性子座を形成させることに世界で初めて矢萩信夫は成功した。




